Silver Bullet Automatic

Master×Re:master

ショートストーリー

第七話 おはよう、さようなら

ふわふわ ひらひら ふわふわ ひらひら
風に乗って世界を染める
ふわふわ ひらひら ふわふわ ひらひら
身も心も 春の香りに
ふわふわ ひらひら ふわふわ ひらひら
出会いと別れ ふたつの季節

…………。

さくらのはなびら……ひらひら、ひらひら。
まだまだ風はすごく冷たいけど……満開のひらひらを見てると、もう春なんだなぁ……って思う。

…………。

ひのでだいなながくえん。
入学できて良かった……。
勉強は嫌いじゃない。
じっとしてるのも嫌いじゃない。
でも、周りに人がいるのは苦手。
そんな中でじっとして、難しい話を聞くのは嫌い。
なんでなんだろう?
今まで怒られるたびに何度も自分で考えてきたけど、いつもいつも、答えは出ない。

だいたい、そんなこと考えても意味なんてないのに。
好きとか嫌いとか、そんなものに理由が必要なのかな。
理由があると、納得できるのかな。
納得できると、安心できるのかな。
安心できたからって、分かり合えるわけでも、なんでもないのに。

キーンコーンカーンコーン。

チャイムの音。
ホームルーム……始まっちゃう。
もうちょっと、さくらのはなびら、見てたいけど……。
とっても面倒臭いことになるから、行かなきゃ。

でないと、せっかくできたひとりの時間、全部なくなっちゃうから……。

………………。
…………。

キーンコーンカーンコーン。

……にゅうがくしきってやっぱり退屈。覚悟はしてたけど。
規則って本当に面倒くさいことばかり。
生き物が生きてく上で、必要なルールがあることは分かるけど、人間のルールはあとづけで無駄なものばっかり。

さくらの花……散っちゃったら、もう来年まで見ることなんてできないのにね。

でも……今は花を見てもなんとも思わないような……心が死んじゃってる人も多いから、どうでもいいことなのかもね。

…………。

ふわふわ ひらひら ふわふわ ひらひら
小さなはなびら地面を染めてく
ふわふわ ひらひら ふわふわ ひらひら
すぐに色あせ踏みつぶされる
きれいなものもきたないものも 全ては朽ち果て土に還る

ここの中庭……いつもこれくらい人が少ないのかな?
こんな風に全然人がいないなら、毎日だって登校してもいいんだけどな……。

第七話 おはよう、さようなら

ベンチに腰掛けて、かばんの中からタブレットのケースを取り出す。

しゃかしゃか しゃかしゃか ぽろぽろり

ビタミン、カルシウム、亜鉛に鉄分、ブルーベリーにドコサヘキサエン酸。
今日はすごくバランスよく出てきてくれた。えらいえらい。

桜のひらひらを眺めながら、サプリメントのつぶつぶをコリコリと噛み砕く。
お昼ごはんを食べながらのお花見……さくら色の風もすごく気持ちいいし……このまま時間がずっと止まってればいいのにな。

ぽり……こりこり……んむんむ……。

『……っしょ……よっこいしょ……あ、うぅ……風、強いよぅ……』

???
渡り廊下の方……から声がする。女の子かな。
プリント……運んでるみたいだけど……ふらふらした足取り……。
危なっかしいな……あっ、段差……。

『きゃあああっ!!』

転ぶかな? と思ったら本当に転んじゃった。

『いたたたた……ああ……う、うう……』

女の子……大した怪我はしてないみたい。
運んでいたプリントもそのまんま。
なんだか、見た目より根性がある子……かも。

『いたたたた……あっ、ああ、あああああああっ!!』

でも、冷たい風がぴゅーっと吹きつけて、彼女の手からぱらぱらぱらぱら……。
桜の花びらみたいに、真っ白な紙が舞い上がっていく。

『ああああああっ!? た、たいへんっ!!』

転んでもそんなに動じなかった女の子の顔が、くしゃりと歪んじゃった。

第七話 おはよう、さようなら

………………。

目と目が……合っちゃった。

『………………』
『………………』

生まれたばかりのわんわんのような、キラキラと輝く瞳。

そして、救いを求めるような悲痛な表情。

………………。
そんな顔でこちらを見ても……事態がどうなるという訳でもないのに。
そういうことを考えながらタブレットのつぶつぶを噛んでると……女の子の表情が変わった。
ううん……表情だけじゃない。
なんて言ったらいいんだろう……雰囲気……安っぽい言葉ならば、オーラ的な……もの?
彼女を構成する全てのものが鋭さを増したような、そんな感じ。

そして、彼女は何事もなかったかのように立ち上がると、黙々と紙を拾い始めた。

ふーん……ちょっと……興味出てきたかも。

ベンチから立ち上がって、彼女の下に足を進めてみる。
途中、風に舞ってる紙を拾って、跪いたままの姿勢の彼女に差し出した。

「こっちにも……飛んできた」

声をかけてあげると、俯いていた頭が上げられ――。

『あっ、ありがとうございますうううっ!! お手を煩わせてしまって申し訳ありませんんんっっっ!!』

あ……れ?
さっきの変化……私の気のせいだったのかな。
顔を上げた女の子の瞳には涙が潤んでいて、その表情にはさっきのような殺気はどこにもない。

「はい……これ……」

なんだか拍子抜けしちゃった。
こんな女の子から闇の世界の匂いがするなんて……と興味がわいたのに……。
最近は私も穏やかな生活ばかりしてたから、感覚が鈍ってきちゃったのかな?

「??? どうかされましたか?」
「いや……なんでも……!?」

また、彼女と目と目が合った。
そして、私は見てしまった。

第七話 おはよう、さようなら

彼女の綺麗な瞳の中、その輝きの中を泳ぐように蠢く、奇妙な影――。
蟲のような、獣のような……。
どんな図鑑にも載ってない、どうしようもなく不気味な影――。
その瞬間、私の背筋を冷たいものが駆け抜けた。
え……なに、この感覚。
まさか……私……この娘に……恐怖してる?

「今度から……物を運ぶ時にはもっと気をつけるのが○……」
「ふぇえ、すみません……初めて通る道だったので……不注意でした……」

この私が……他人に注意?
ありえない。
ありえないけど……嫌な気分じゃない。
何て言えばいいんだろう……納得……してるから?
この世界での序列と言うか……そんな感じ?
ずいぶん退屈な時間を送ってきたけど……久しぶりに、ドキドキするような時間、送れるかもしれない。
でも、ひょっとしたら……さっきみたいに気のせいなのかも、しれないけど。