父と母は死んだのだと言う。
 伝聞だ。
 亡骸をこの目で確かめたわけではない。
 雪降る深い山嶺に踏み込んで、春になっても帰って来なかった。
 だから死んだのだろうと、誰もがそういった……

 平山修二は雪国で生まれた。
 両親が死んで、天涯孤独になった修二は親戚に引き取られたが、周囲の視線は心温まるものではなかった。
 どこか疎まれながらも、都会での生活にも馴れていき、友人にも恵まれる。
 少しの我慢と平穏に充ちた日々へと次第に埋もれながら、修二は毎年冬の休みを利用して実家に帰る習慣だけは捨てることができなかった。
 それは、心のどこかでまだ両親の死を飲み込めていないからのことなのか。
 それとも……。

 修二の田舎は雪深い町だ。
 それ意外には取り立てて目立つところのない町だが、ほんの少し山間に入れば、ほとんど人の住まない地域が広がっている。
 目立つところがないために、かえって開発も進まなかったようだ。
 町のそこかしこには、今でも古い時代の残り香が漂っていた。
 冬になれば、町を白く雪に染まった山が見下ろす。



 山には地神が祀られている。
 平山の家はその祭司の家系である。
 半ば忘れられながら、それでも細々と伝承されてきた古い祭祀。
 だが、それも遠からず本当に過去のものとなるのだろう。
 祭司の直系は、今となっては修二ただ一人を残すのみとなってしまったからだ。

 そのはずだった。



 両親が死んだ日、幼い修二は、姉を名乗る少女と出会った。
 深雪、という名の少女とは、もちろんこれまでに面識ひとつない。

 どう考えても、姉などいないはずだ。
 両親はずっと一緒だったし、以前に子供を作ったとも聞かない。

「作っていたとしても、子供には教えないと思う」

 少女の言うことは、その通りには違いない。
 あの木訥な両親が……とも思った。
 だが、心のどこかでは、彼女が義姉などではないことを理解していた。
 自分が利用されているのかも知れないとさえ考えられた。
 が、構わない。
 そう、思った。
 やはりどこかに寂しさはあったのだろう。
 今や無人となった実家は広く、寒く、虚しさは募るばかりだった。
 姉の存在で、失われた家族のあたたかみを少しでも取り戻せるのなら。
 この冬から、修二と義姉はともに暮らすようになった。
 修二は都会に、深雪はこの家に。
 だから、それは毎年帰省する一冬だけの間の、短く儚い姉弟関係だ。
 慎ましく、ひそやかに、繰り返される一冬の夢――。




(文:田中ロミオ)

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